杉浦シェフインタビュー前編 「キーパーソンに聞きました」

2021.05.29

「conomeal(このみる)」に携わるさまざまな分野のプロフェッショナルに、関屋英理子編集長がインタビューする当コーナー。今回はビーガン料理の先駆者として幅広く活躍している杉浦仁志シェフです。杉浦さんはテクノロジーを使って飲食業界を変えたいという並々ならぬ決意を抱えています。なぜそのような思いに至ったのか。話をうかがいました。

 

 

「conomeal(このみる)」からはじまる、食のイノベーション。

関屋:杉浦さんには、前回ご登場いただいた北海道大学の川村先生とともに「conomeal(このみる)」の共同研究にご協力いただいています。月1回のオンライン会議では、いつも川村先生と意気投合してらっしゃいますよね。

杉浦:川村先生が提案するコンピューターのシミュレーションには、いつも刺激を受けます。僕は料理人の立場から気づいた点を指摘し、「conomeal(このみる)」がより良いものになるようにお手伝いしています。

関屋:はじめに取り組んだのは「新しい味の組み合わせ」でした。コンピューターに新たな組み合わせを発想させるには、そもそも「何が良い組み合わせなのか」を定義しなければなりません。そこで杉浦さんには、食感や香りなどの組み合わせを細かくヒアリングしました。
現在取り組んでいるのは、調理の効率化です。作り置きをする際に、どの作業を同時に進めたら効率が高まるのかを研究しています。

杉浦:コンピューターのシミュレーションだとうまくいくことも、実際の現場でうまくいくとは限りません。そこで、僕の調理経験とコンピューターのシミュレーションとの差をすり合わせているところです。短時間で加工調理を終わらせるためには、コンロの限られた火口を効率良く使うことが重要で、それに配慮したタイムスケジュールを組むシミュレーションもします。これをレストランに応用して、お客さまの行動もプログラミングできれば、来店時間ぴったりにできたての料理を提供できるようになるはずです。

 

 

関屋:このほかに取り組んでいるのが、食材を無駄にしない工夫です。「conomeal(このみる)」でトマト缶を半分しか使わないレシピを提供すれば、残りの半分が無駄になってしまう。そこで、トマト缶をすべて使い切れるようなメニューが必要となります。調理をする際には、食材の鮮度も考慮に入れなくてはなりません。魚などの生ものを調理する際には、手順を早めるといった配慮もしながら家庭から食品ロスを減らしていきたい。

杉浦:最近は、以前にも増してフードロスが問題視されています。家庭でも食材を余すことなく、おいしく食べられるアイデアが浸透すれば、いつの日かフードロスを解決できるかもしれません。「conomeal(このみる)」の取り組みはすべて食のイノベーションにつながっていて、いつもワクワクします。

 

 

テクノロジーが、飲食業界をガラリと変える。

関屋:私は杉浦さんと打ち合わせをするたびに、テクノロジーへの造詣の深さに驚かされます。なぜそんなにお詳しいのですか?

杉浦:テクノロジーを使って実現したいことがたくさんあるからです。ひとつ目は、調理技術の可視化です。飲食業界では、いまだに口伝で技術が継承されていますが、誰でも理解できる方法がないか常に模索しています。ふたつ目は、新たな食べ合わせの発見です。基本的に、食べ合わせは自分の経験に基づいて発想するため、この経験が足かせになって新たなアイデアが浮かばないこともあります。AIならそのハードルを越えられると思うのです。

関屋:AIに機械学習をさせたら、自分の経験を超えた思いもよらない食べ合わせが生まれるかもしれませんね。

杉浦:その通りです。AIには経験という足かせはないので、独創的なアイデアが生まれることを期待しています。そのうえ、AIは人間よりも速く食べ合わせのパターンを生み出せる。僕の会社だと管理栄養士がアレルギーなどに配慮しながら1ヵ月分の献立を作るのに2週間ほどかかったのですが、聞くところAIならわずか1分半でできるそうです。スピードも精度も人間より高いAIを、使わない手はないと思います。最後に取り組みたいのが労働時間の短縮です。海外にいた頃、毎日3,000〜4,000人に料理を提供してきたのですが、そのなかで人がやらなくてもすむ仕事がたくさんあることに気がつきました。一番衝撃を受けたのは、朝5時半から夜7時まで、ひたすら野菜を切っているスタッフを目にしたときです。

関屋:こうした単純作業をロボットに任せられれば、人は人にしかできないクリエイティブな作業に集中できそうですね。

杉浦:そうですよね。一皿ずつに同量の調味料を入れる調理工程があるのですが、複数の皿へ一度に流し込めるロボットがあれば、圧倒的な時短になります。近年定着しつつある、キャッシュレス払いも時短のソリューションです。昔は一枚ずつお札を数えて、レジを締めるのに45分ほどかかりましたが、キャッシュレスなら2分程度でレジ締めが終わります。ヒューマンエラーもありません。テクノロジーを活用すれば、もっと効率良く仕事ができるのは間違いないですよね。

関屋:杉浦さんが時短に着目するのはなぜですか?

杉浦:僕自身、20代から30代の前半までは、毎日12時間以上働き詰めの生活が続いたからです。当時は、掃除からレジ締めまでを、ワンオペでやるのがあたりまえの時代でした。その結果、オーバーワークで燃え尽き症候群になってしまった。そのときに強く感じたのが「若いシェフには同じ経験をしてほしくない」ということです。テクノロジーをどんどん導入して、飲食業界をもっと働きやすくしたい。「長時間労働」「低収入」「きつい」というレッテルを剥がして、「楽しそう」「自分にもできそう」と思ってもらえるようにしたいのです。

関屋:テクノロジーを活用すれば、目に見えて変わるでしょうね。

杉浦:確実に変わります。そのためにも「conomeal(このみる)」を通じて、さまざまな知見を吸収したいと思っています。

 

 

プロフィール

 

「conomeal(このみる)」AIアドバイザー

2009 年に渡米し、パティナレストラングループの創業者ジョアキム・スプリチャル氏に師事。2014年と2015年にはニューヨークの国連日本政府代表部大使公邸で開催されたレセプションイベントにてエグゼクティブシェフを担当する。2017年、ベジタリアン料理の世界大会“The Vegetarian Chance”(イタリア・ミラノ開催)にてトップ8シェフに選出。2019年「ベジタリアンアワード」にて初の「料理人賞」を受賞するなど、受賞歴多数。2019年、ONODERA GROUPエグゼクティブシェフに就任。

このみる研究所編集長 関屋英理子

株式会社ニチレイで新規事業開発を担当。フードテックとの出会いをきっかけに、AIで食の好みを分析し、一人ひとりに合った食を提案するサービス「conomeal(このみる)」の開発をスタート。

この記事の著者のプロフィール

関屋英理子

このみる研究所編集長

株式会社ニチレイで新規事業開発担当。「conomeal(このみる)」と言う個人の食の好みを分析する仕組みを使った事業を開発するのが私の仕事です。 「conomeal(このみる)」を通じた食の楽しみ方、時々新規事業のことなどを発信していきます。

こんな記事も読まれています