タンドールってなんなのか。

2021.03.06

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皆さんはインド料理のタンドリーチキンを食べたことがありますか。そう、インドレストランに行くとメニューに載っているあの赤い色をしたチキンの料理です。それと、ナン。インドのパンですね。
今回はそれらの調理に使う調理器具、「タンドール」のおはなし。

 

インド料理店にあるタンドールという土窯

インドレストランに行ったことがありますか。美味しいインド料理、カレーやナンが食べられるレストラン。2020年代においては昔と違ってインド料理は珍しいジャンルのものではありません。

本当に、私鉄沿線の小さな駅やなぜこんな場所に、というような駅から離れた街の外れにまでインド料理が食べられる店があったりします。そしてそういう店のほとんどには「タンドール」と呼ばれる大型の調理器材が設置されています。

 

インドレストラン、タンドールがある店とない店

日本最古のインドレストランとしてみなさんもご存知、銀座の「ナイルレストラン」は大変有名です。著名人も訪れる70年以上の歴史を持つレストランです。
ところがナイルレストランにはタンドールは設置されていません。あんなに有名なインドレストランがどうして?じゃあナンは食べられないの?そう思う方も多いと思います。これは地域から来る理由です。日本のではありません。現地インドの地域性からくるものなのです。

ナイルレストランはもともと南インドの料理を主軸として始まりました。初代のA.M.ナイルさんは1905年、イギリス領であった頃の現在のインド南部のケーララ州都、トリヴァンドラムで生まれました。つまりナイルレストランの根っこは南インドにあったということです。

 

南インドではタンドールを使う調理は伝統的なものではありません。地域で食文化の違いがあるということなのです。

 

ざっくりと大きく分けるとインドは北と南とで大きく食文化が違います。細かい説明は省きますが、インド洋に突き出たあの大きな逆三角形の亜大陸、地図で見る上の方は北インド。穀倉地帯もあり小麦文化、パン食の文化があります。
逆三角の下の方が南インド。大きな川も多数あり海岸線の扇状地と相まって豊かな米食文化が生まれました。タンドールは北インドの食文化に結びついています。

 

タンドールの源流

タンドールはもともとインドのそのまた向こう、中東方面からやってきたものです。モヘンジョダロ、覚えていますか。中学校や高校の歴史の授業で勉強しましたよね。インダス文明最大の都市遺跡で、パキスタンの海辺の町カラチからインダス川をさかのぼっていくとたどり着きます。そのモヘンジョダロの遺跡群の中にタンドールの原型にあたる遺跡が見つかっているそうです。

紀元前2500年から紀元前1800年にかけ繁栄した都市にその跡があったということで大変に歴史の長いものだということがわかります。

 

カスピ海周辺にもパンを焼く文化が古くからあります。漫画「乙嫁語り」にも美しい絵で女性たちが村の共同の窯でパンを焼くシーンがありました。

 

タンドールは蒸し焼き調理の土窯

タンドールはどんな調理器具でしょうか。皆さんがよく知るものはインドレストランで見かけるステンレスの箱の上に丸い穴が空いているタイプのものではないでしょうか。
もしくは東京のひとはご存知かもしれません。代々木公園で毎年行われるインドのお祭り「ナマステインディア」。インド料理の屋台がたくさん出るのですが、テントの中をのぞくとドラム缶でナンを焼いていたりします。形としてはそのどちらかをご存知なのではないでしょうか。

タンドールは蒸し窯です。すごく乱暴にいってしまえばスチームコンベクションオーブン、ヘルシオやビストロなんていう名前で家電売り場に並んでいるあれと同じようなものです。厳密には少し違うんですけど庫内で対流熱と水蒸気で蒸し焼きをする構造は似ています。

 

現代のスチームコンベクションオーブンは水を入れて使います。タンドールは調理する食材の持つ水分を使って蒸し焼きをする構造です。

 

タンドールは土でできた釣鐘状のポットです。いわば素焼きの植木鉢をひっくり返したようなイメージでしょうか。その土でできたポットをステンレスなどのケースに入れて、窯とケースの間に蓄熱性のある材料をつめこんで完成させています。
底部には熱源として炭が入っており(現代ではガスタンドール、電気のものもあります)炭をおこしたその火で庫内に対流熱を生み出し、上から入れた食材を熱源からの直火ではなく、熱せられた熱い空気の対流で焼き上げるというものです。

焼き鳥は熱源が1箇所、一方向にあり、その熱を直接食材に当てて加熱します。なので食材をひっくり返していかなければ均等に焼くことができません。
タンドールはその庫内スペースの中で熱源から発生する熱い空気が窯の中をぐるぐると回り、その効果で全体が均等に熱せられてひっくり返したりせずに調理が完結するのです。

 

なかなかに効率的、合理的な調理器具なんですね。

アジアの蒸し焼き料理の文化

アジアには蒸し焼きの文化がいろいろな場所にあります。例えば島嶼部の地域では海岸線に砂浜があります。砂浜を浅く掘って焼いた石を敷き、その上にバナナの葉などで食材を包み、さらに砂をかけて蒸し焼きにする調理などが見られます。
葉でくるんだ食材の上に土を被せてその上で焚き火をするというスタイルもあるそうです。
タンドールも現在のような金属のケースに入れたりするタイプの前は地面の穴を掘ってその中で調理をしていたそうです。

いまでもオールドデリーのバザーの迷路の奥にある有名レストラン「カリムホテル」ではタンドール料理の職人さんが床にあぐらをかいて背中を丸め、床に空いた穴の奥のタンドールにナンの生地を打ち付けていたりする調理風景を見ることができます。

 

タンドールで調理するものは様々です。ナン、チャパティなどのパン類は生地を薄く伸ばしてタンドールの内壁に貼り付けて焼きます。肉類、野菜類などは串に刺してタンドールの中に差し込んで焼き上げます。遠赤外線効果と対流熱でどんな食材もふっくらと仕上がり、大変美味しい料理が出来上がります。

 

ちいさなマイタンドール。ポータブルタンドール。

知っているようなことを書いていますが、実は、知っています。なにしろわたし、インドに行ってタンドールを4台ほど買って帰ってきましたから。もちろん背負って持って帰れるものではないですから船便を手配して日本に送りました。横浜本牧の税関で通関手続きをして自分のクルマで家に持ち帰って。
大変でしたがすごく面白い体験でした。

膝丈をこえる程度の小さなものですが、そのサイズからセダンのトランクやワゴンの荷室にさらりと収まり、キャンプやバーベキューなどもアウトドアでのシーンで活躍してくれています。とはいえ30キロほどあるのでハンドリングはちょっと大変ですね。

 

炭を入れて加熱すると庫内は300度半ばほどに加熱され、ちゃんと対流熱が起こってチキンを美味しく仕上げてくれます。

 

インド料理の他にも、春ならば筍を掘ってきてアルミホイルで包んでそこに放り込んでおけば15分ほどでホクホクに仕上がります。
冬は同じ手法で焼きリンゴ。絶分のデザートが手間もかからず12分ほどで仕上がります。串に刺してタンドールの入り口から庫内に入るものであればなんでも蒸し焼きにすることができます。

本来タンドールという調理道具は家庭に据え付けるものではありません。日本人がパンをパン屋さんに買いに行くように、インド人はナンが食べたい時は町のレストランで食べたり買って帰ったりするわけです。自分のおうちにタンドールを備え付けられるような家は、いわゆるマハラジャクラス。使用人の人が調理をするようなお金持ちクラスのお話になります。

 

インドの家庭では発酵パンであるナンは手間がかかるのでチャパティという無発酵のパン、小麦粉を水と塩を加えて練った生地を焼くチャパティが主流となっているそうです。

 

最近、日本では植木鉢の大きなものを2つ組み合わせ、それを一斗缶やエンジンオイルのペール缶にいれて、趣味で自作のタンドールを作るDIY派もいるそうです。

随分前ですが、大学の学祭で地面を掘ってその穴の壁面に耐火煉瓦を敷き詰めたタンドールを作っている学生がいたのを見たこともあります。これは昔風のタンドールのスタイルで興味深いですね。

 

インドの土窯、タンドールに興味が出てきましたか?まずはインドレストランにてタンドールで調理をする料理を頼んでコックさんに調理風景を見せてもらいましょう。なかなか興味深いものですよ。

この記事の著者のプロフィール

飯塚敦/はぴい

フードジャーナリスト

食をテーマとしたライフスタイルブログ「カレーですよ。」に国内外のカレー実食レポート5000記事超の掲載。月刊誌にてカレー取材記事連載中。連載期間10年目は国内随一。TV、ラジオ、雑誌等メディア出演多数。著書に「カレーの本」「iPhone x Movieスタイル」等。はぴいオフィシャルサイトHP➡https://hapi3.net/

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