中央アジアカレー事情と台湾のカレーライス。

2021.02.18

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皆さんはカレーというとどこの国を思い出しますか。主に日本とアジアのことを思い出す方がほとんどですよね。

その通り。日本人がイメージするカレーというもの、南アジア、インド亜大陸周辺から東南アジア、タイ、ミャンマー、ベトナム等にかけて分布するイメージです。しかし移民、印僑の人々などの関係からアフリカに飛び火したカレーやいくつかのヨーロッパにもカレーが散見されます。

 

アジアの中のカレーのイメージ

そんななか、アジアのカレーの話しで南アジア、東南アジアときて中央アジアの話が出てきませんでした。中国、台湾、韓国など、中央アジアのカレーってどうなっているんだろう。

韓国、ソウルに行ったのはもう15年ほど前でしたが、その時は薄い味のカレーライスがあるなあというのと日本一大きなカレーチェーン、韓国にも店出しているのだな、という印象でした。2年前に行った中国、深圳ではほとんどカレーは見つけられませんでした。香港には香港のカフェ文化と紐づいた、カレーライスそのものではない独自のカレー味の料理があることを確認しました。それと有名な重慶大厦(重慶大厦)にはインドやパキスタンなどの南アジアの人たちが根を張ってコミュニティを形成しており、日本のカレーライスではなくてインド周辺国の料理が選び放題という面白さを体験してきました。

 

そしてそんな中、気になる噂を聞いて台湾にカレーの取材をするために2度ほどいってきたことがあります。2014年と2016年のことです。5年ほど前の話ですが、台湾のカレー事情をお話ししようと思います。

 

古い日本のカレーライスは今どこに

カレーライス。日本で食べる現代のカレーはなんだかモダンになっています。スパイスカレーの華やかなプレートはもとより、チェーンのカレー店などもトッピング、オシャレ盛りつけ、と「カレーライス」ではなくてオシャレ料理的に変化しています。泥臭い、昔風のカレーライスがどんどん駆逐されていっており寂しい限り。

明治に生まれ昭和20年代に固形ルウの登場と共に爆発的に広まったカレーライス。この頃にカレーライスの現在の形が作られました。ごはんにかかった黄色い、とろりとした(もしくはさらりとした)カレーソース。ジャガイモとにんじんとタマネギが入っていて、関東では豚肉、関西では牛肉を入れるのがスタンダード。外で食べるとグリーンピースが洒落た感じで数粒散らしてあって、コップの水にスプーンが入って出てきたり。現代とくらべるとあまり辛いものではなく、洋食やさんか家庭で作って食べるか、というものでした。いまでは小さな私鉄の駅の商店街の外れにある古い定食屋さんや洋食屋さんで細々生き残るのみ。

 

ところが、です。それ、そのもの。古いニッポンのカレーライスが動態保存されている場所があると言うじゃありませんか。それが台湾でした。

 

そもそも台湾にカレーライスはあるのか

もちろんあります。あるんですよ。それも日式カレーの文化。台湾と日本の関係はご存知の通り。日本をよく思ってくれる方も多く、わたしたちも台湾をよく思っています。その台湾に日本式カレーライスの文化が根付いています。探すべきは夜市。台湾の夜市を知っていますか?

アジアはナイトマーケットが盛んな場所が多いです。タイなんかにもありますし、シンガポールはホーカーズの名前で有名です。日本は現在屋台の文化が切り替わる途上にある感があって、残念ながら昔ながらの屋台ばかり集まる夜店の市など見かけなくなってきています。そのかわりにフードトラックという形態での屋台のモダン化が進んでいるという感じをおぼえます。
台湾では夜市。沖縄の向こう側、南国台湾のあの生ぬるい空気の感じと夜市の屋台、思い出すとまたすぐにでもいきたくなります。

 

台湾の古い屋台のカレーライス

台湾のカレーライスは諸説ありますが、どうやら日本のクラシックなカレーライスが源流にあるようです。屋台で昔から販売されているものがルーツのようで、スタイルが決まっています。「台湾赤肉咖喱飯」そんな名前がついているらしいのです。赤肉は豚の赤身肉のことです。

「台湾赤肉咖喱飯」はぱっと見、日本のカレーライスに見えます。それも今みなさんが食べているカレーライスではなくて、戦中、戦前に日本から持ち込まれたものがそのままの形で台湾の、主に夜市の屋台に残っている、という感じ。色で言えば現代の日本のカレーライスは茶色。昔はもっと黄色かったですね。それはつまり固形ルウ以前のカレー粉と小麦粉を炒めて作っていた時代の古い古いカレーライスのスタイルということになります。そして赤肉咖喱飯の名店といわれる歴史ある屋台がいくつかあると聞いて、どうしてもそこで食べたくて台湾、台北に飛びました。台北市大同區寧夏路にある「鴨頭正二代」という屋号の屋台でした。

 

「我想吃咖喱饭」(カレーライスください)

 

さっと出てきたそのひと皿。立派な古い日本のカレー、そのもののビジュアルです。なるほどまさに昔のカレーライスの見た目と味です。飾らず、気取らず、カレーライス以上でも以下でもなく。不思議に懐かしくて美味しくて、どうにもたまらない味。どこの夜市の屋台でも咖喱メニューのスタイルは同じです。ごはんにカレーがかけてあって、カレーソースにはじゃがいも、玉ねぎ、にんじんが入り、お肉は基本豚バラ肉。スパイス、ではなくカレー粉の香りがぷんと香ります。その中にうっすらと知っている日本のカレーライスにはない香りもまざります。これは八角ですね。うっすらとオリエンタルな香りが重なります。

 

そしていつも見かける赤い福神漬けが乗っているはずの場所にはたくあんが添えられていました。実はここがポイントで、必ずたくあんが乗るのが台湾流。
これはわたしの個人的解釈なのですが、このカレーの元になった日本人が持ち込んだカレーライス。流入したそれはきっと関東の人間が持ち込んだのではないのかということ。理由は豚肉を使用という部分です。関東は豚肉文化、関西は牛肉ですよね。そしてその頃に福神漬けが台湾で手に入れづらかったのではないでしょうか。魯肉飯でも必ず使われるたくあんを添えることが定着したのではないかな、と考えています。

 

モダンなカレーもある台湾の日式カレーの現在

台湾はモダンな日本式カレーが食べられるレストランもたくさんあります。路面店もあればビルイン、フードコートにも、結構な割合でジャパニーズスタイルカレーの店が営業しているのです。

圧巻だったのは、タイペイステーション(台北車站)の2階にあるレストラン街、「微風台北車站」(ブリーズ)の中にあるフードコート、その名を「咖哩皇宮」といいます。なんとカレーの店だけを集めたフードコート。東京にだってそんなものはありません。2014年に行ったときには実に8店舗のカレー店がしのぎを削っていました。

 

2016年にみたときは4〜5店になって少し規模が小さくなっていましたが、それでもフードコートの形でカレーだけを集めているのはすごいことです。

 

そこで選んだカレーライスもモダンにブラッシュアップをされてはいますが基本は変わらずのモダンクラシック。黄色いカレーソースに豚肉、添えられた箸休めはカットこそ細かくしてあって洒落ていますがたくあんでした。

味の洗練もありますが、基本はあの屋台の黄色いカレーの派生とわかるもの。

 

逆に完全に現代の日本式カレーを出す店も見受けられました。
場所は数年前に日本にもやってきたくらしと読書の交差点を標榜する書店「誠品生活日本橋」。コレド日本橋にあるあそこの本拠地、台北の誠品書店の旗艦店の地下にあるおしゃれで巨大なフードコート。食べたカレースパゲッティ。なかなかの見た目です。

 

スパゲッティの上にカレーがかけられていますが、台湾の屋台カレーの数々のような黄色ではなくて現代的なブラウンのカレーソースになっていました。味も然り、です。

 

茹でたイカはうすごろもをつけて揚げ焼きになっており1杯丸ごとという大ボリューム。それを生かすためにばらさずきれいに並べて盛り付けてあります。コーンとブロッコリで色目も美しく、そして現代的な味でちゃんとおいしい。たしかにこれは日本にあるカレーライスのアレンジとして成立しています。

 

他にも街を歩けばインド料理、ネパール料理もタイ料理の店もあって、それぞれ日本人がカレーと呼ぶものがメニューにありました。また、日本の大手牛丼店なども何社かの進出があり、そこでのカレーの提供もあります。これはもう日本と全く同じものが出てきました。

 

スーパーマーケットには固形のカレールウも日本の大手、地元企業と百花繚乱、レトルトカレーも日本ほど種類は多くありませんがしっかりと根付いていることが見て取れます。コンビニにはチルドのカレー弁当が並び、種類も多く、充実しているようでした。

 

古い日本式のカレー粉と小麦粉を使った黄色いカレーライスと現代的な茶色いソースのカレーライスが程よく混在しる、台湾のカレー事情、面白いと思いませんか。

日本以外で日式咖喱がこれだけ日常に根付いているのはアジア圏全体を見ても台湾が群を抜いているな、と強く感じました。

この記事の著者のプロフィール

飯塚敦/はぴい

フードジャーナリスト

食をテーマとしたライフスタイルブログ「カレーですよ。」に国内外のカレー実食レポート5000記事超の掲載。月刊誌にてカレー取材記事連載中。連載期間10年目は国内随一。TV、ラジオ、雑誌等メディア出演多数。著書に「カレーの本」「iPhone x Movieスタイル」等。はぴいオフィシャルサイトHP➡https://hapi3.net/

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