需要予測AI技術による食糧廃棄問題の解決

2021.03.02

私たちが普段口にする食べ物は、農作物の生産から、加工品であればその製造、そして卸業者を通し、小売店に並べられ、最後に消費者に購入され台所にやってきます。レストランを通して私たちの口に届けられたりもします。食品はとても長い経路のサプライチェーン(以下、SC)をたどってくるのです。

そのSCを流れる食料の種類は何万にも及び、それぞれに価格、パッケージングによる異なる大きさ、または食べ物特有の保存期間など多種多様な要素が織り込まれています。そして、気候などの環境条件、運搬コストなどの流通事情、製造においては労働環境、そして消費者需要の変化など絶え間なく変わる要因に影響を受け続けています。

 

このSCが滞りなく、つまりすべての段階で在庫が適切に管理され、最適な流通量を保てれば理想です。しかし、上記のような複雑な状況が要因となり、流通途中で過剰な供給が起きてしまい、倉庫に保管できる期間を超えてしまうことがあります。その時は残念ながら、余剰分を破棄しなくてはなりません。

 

需要量と供給量が常に一致していれば、基本、生産されたものはすべて消費され、無駄になるものはありません。実際には、需要が供給を上回り、生産や供給が追い付かなくなる場合もあれば、反対に供給が需要より高くなり過剰になるときもありますので、余剰分をどこかに保管しておかないといけません。

食糧SCで問題になるのが、途中で保管できる時間、つまり保存期間が限られていることです。備蓄できる穀物は別にしても、体に取り入りれる食事は出来立て、材料は新鮮であることに越したことはありませんし、生ものは腐ってしまえば口にすることもできません。余った食料は、廃棄するしかないのです。廃棄食糧の肥料や燃料などへの変換など可能な限りの再生産は行われますが、それでも使えないものや、流通として回らないものは、そのまま”ゴミ”となってしまうのです。

 

最近の例では、コロナ渦の影響でワインの需要が世界的に落ち込み、例年通り収穫したブドウを生産者自らが破棄しないといけなくなるということも起きていますね。

 

食糧廃棄に関する数字を世界規模でみますと、13億トンにもおよびます。なんと生産された食料の1/3に相当します。日本も年間643万トン(*1)もの食料が廃棄されており、その55%はSCの流れの中で起きているのです。一方で、世界人口は現在の77億人から2050年には96億人に増加すると予想されていて、増加する人口に必要な食料を供給できなければ世界は食糧危機に陥ると危惧されています。

 

売り上げの機会ロスを発生させたくないという経済的な理由で、小売店では過剰に食品を入荷、陳列するという話もあります。外食においても同様です。そこで起きている、消費者が口にできる形の売れ残り食品をゴミにしてしまうという”もったいなさ””罪悪感”は、メディアを通じても伝わってきています。

しかし、このような廃棄も、長い食糧SCの中では一部であって、あらゆる過程で食糧廃棄の可能性は存在するのです。結果、トータルで食料廃棄を考えると、上記のような大きな数字になってしまうのでしょう。食糧SCの流れ全体を考慮して、取り組まないといけない問題なのです。

 

こういった複雑な食糧SCで発生している廃棄問題を解決するのに、今一躍を担おうとしているのがAI技術です。具体的には、需要予測と呼ばれる技術で、食糧SCに関わる業界が一体となって取り組もうとしている解決手段の切り札と考えられています。

 

SCの各段階での需要と供給のそれぞれの量には、さまざまな原因と強い関係性を持っています。

簡単な例では、その年の降雨量が豊富で、ある特定の野菜の生産量は高くなり(多い供給)、需要が同じであればSCの中間のどこかで在庫を抱えないといけません(自由市場においては供給量が増えれば、価格は自然と下落し、需要も増えるので中間在庫量は変わらないのが定説ですが、実際は価格管理や時間差、他の経済的要因によって常に最適化されるわけではありません。)

この関係性に着目して、未来に予想される需要をあらかじめ知ることができたら無駄が省けると思いませんか? 簡単な例では、近い将来高い需要が予想されれば、それに応じて供給する量を増やせばいいというわけです。実際にはもう少し高度な応用が期待され、SCの全体を見渡すことで、余剰が期待される供給を需要過多な地域に最適配分したりと総合的な流通効率を上げることができます。いずれにせよ結果として、諦めて廃棄していた食糧を効果的に有効配分できるようになるということです。

 

とはいえ、前述のよう現実のSCの流れは大変複雑に絡み合っているので、需要と供給の変化を促す要因が明確ではありません。グローバルなSCとなった今では一つの市場は海外も含め他の様々な市場と絡み合っています。大衆メディアがとある食材や料理の種類を取り上げたりすると、いきなり消費者の購買傾向が変わり、急激な需要増加があるかもしれません。

したがって、食糧需給の予測は困難といわれていました。予測とは未来の”いつの時間”に”どれくらいの量”になるか?という二つの属性を同時に推定しなくてはならないプロセスなのです。

 

そのような中、昨今のAI技術には大きな進展があり、具体的には複雑でありながらも大量のデータを構造的に蓄積することが可能になりました。全体の状況を俯瞰的に分析できる技術の開発が背景となり、今までとくらべて精度の高い予測が可能になってきたのです。技術の根幹は、電力量の予測などの需要予測一般に使えるものですが、食糧SCにおける需要と供給の予測にも応用できるのではないかと検討が進められています。

 

今後は、スマート冷蔵庫などAI家電の普及により、さらに精度の高い需要予測も期待されています。例えば、画像認識機能を持つ冷蔵庫を活用することで、各家庭での食材や食料品の利用状況を把握することができます。最終消費者の需要傾向を予測するための、より詳細な情報の利用が可能になるのです。個々人の趣向により将来的に消費される食料の種類も最適化されてくるかもしれません。パーソナライズされた家庭内の個人レベルでの廃棄を減らすことは、SC全体への影響としては微々たるものかもしれませんが、地域レベル、最終的には世界レベルで考えると大きな貢献になる可能性があります。

 

(*1)「食品ロス量(平成28年度推計値)の公表について(平成31年4月12日)」 農林水産省 から

この記事の著者のプロフィール

ピープルトラスト研究所

データサイエンティスト/ピープルアナリスト

この記事では、AIやデータサイエンスを元にした食に関する情報を紹介していきます。著者のピープルトラスト研究所は、人を対象にしたAIテクノロジーの研究や、データ分析をしている研究所です。Food Techをはじめ、HR TechやEdu Techなど幅広い領域で、人が幸福に暮らせるための研究を行っています。

こんな記事も読まれています