Vol.2 川村秀憲教授 〜後編〜

2021.02.16

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前編に続き、関屋英理子編集長が「conomeal(このみる)」のAI開発アドバイザーを務める川村秀憲教授にインタビューを敢行! 人工知能(AI)がおいしさを学習することで、どのようなイノベーションが生まれるのか。100年後、食卓の風景はどのように変化するのか。AI研究の最前線を行く氏だからこそ見える、未来の姿を伺いました。 

「おいしさのフレーム」を探求したい。

関屋:川村先生は今後、AIを活用して食の分野でどのような研究に取り組む予定ですか?

 

川村:最終的な目標は、「おいしさとは何なのか?」を明らかにすることです。かつては食物に含まれるさまざまな成分を科学的に分析することで、おいしさを定義できると考えられていた時代もありました。味や香りを測定するさまざまな機器もありますが、おいしさそのものに迫ることはできていませんよね。

 

関屋:たしかに、「塩分量がこれくらいで、脂肪が何パーセント」といったように料理を分析しても、おいしさの実態にはたどりつけなさそうです。

 

川村:ファッションでも、袖や襟の長さ、素材の質などをいくらデータ化しても、「かわいい」や、「おしゃれ」という感覚は定義できませんよね。それと同じで、数値だけではおいしさを定義できないのです。

 

関屋:だとしたら先生は、どうやっておいしさに迫っていくのでしょう?

 

川村:まず数値的なデータと、感覚的なデータとをリンクさせていくことが重要です。そのためには「誰が、いつ、何を食べて、どう感じたのか」という具体的なデータを「conomeal(このみる)」で大量に集めなくてはなりません。その上で「脂っこくて、おいしかった」「さっぱりしていて、スルッと食べられた」といった感覚的なデータと、塩分量や脂肪量などの数値的なデータを紐づけていきます。ここで膨大な情報を処理するのが、AIの役割です。
これがまとまれば、「この食の傾向を持つ人は、こんな時に、この料理をおいしいと感じる」といったように、ある程度まで「おいしさのフレーム」を絞ることができるでしょう。

 

AI研究者が考える、100年後の食卓。

関屋:「おいしさのフレーム」という考え方は面白いですね。それが明らかになれば、さまざまな恩恵がありそうです。私たち食品メーカーが新製品を開発する際にも、よりターゲットにマッチした味を追求できるようになるでしょう。飲食店の開発などにも生かせると思います。

 

川村:人々の食に対する意識の変化を探る上でも役に立つはずです。今を生きる私たちは、何をおいしいと感じるのか。「おいしさのフレーム」の変動を追っていけば、おいしさという感覚の変化もデータとして扱えるようになるはずです。そこから次の時代に求められるおいしさを先読みできるかもしれません。

 

関屋:それは興味深い発想ですね。先生自身はこれから100年で、食卓の風景がどのように変化すると考えていますか?

 

川村:大胆に予測するなら、天然の食材が嗜好品になっていくことではないでしょうか。たとえば、普段の食事には3Dフードプリンタで出力した疑似食材を使い、食そのものを楽しみたいときには天然食材を選ぶ。そんな未来がやってくる可能性もあります。もちろん「おいしい擬似食材」づくりにも、AIで蓄積したデータを活かせるはずです。

 

関屋:すでに3Dフードプリンタから出力された本物そっくりの人工肉なども登場していますから、決して夢物語ではありません。いずれにしても、おいしさの正体を科学的に突き止められれば、様々なイノベーションのきっかけになりそうです。

 

川村:そうですね。研究者からすると、「おいしさ」という人の本能に根差した抽象的な概念を扱うAIの開発は、とても魅力的なテーマです。もしかしたら、その過程で「知能とは何か?」というAI研究の究極の問いに迫るヒントを得られるかもしれません。もちろん簡単には成果は出ないでしょう。だからこそニチレイさんのようなアカデミアの外側にいる食のプロフェッショナルと協力しながら、研究を推進していきたいですね。

 

関屋:ぜひ、よろしくお願いします! 先生とともに手がけるプロジェクトは、私たちにとっても最先端の知見に触れられる、またとない機会です。また先生は、AIを活用したベンチャービジネスもいくつも立ち上げていますよね。新規事業をスケールさせる、その突破力からも大いに学ぶところがあると感じています。

 

川村:僕にできることがあれば、いつでもお力になります。一緒に食の未来を作っていきましょう!

 

プロフィール

 

「conomeal(このみる)」AIアドバイザー川村秀憲

北海道大学 大学院情報化学研究科 教授。人工知能や複雑系工学の研究に従事し、多数の論文を発表してきた。2017年には地域課題解決に資する人工知能技術の研究開発が功績として認められ、北海道科学技術奨励賞を受賞。北海道大学発のベンチャー企業、株式会社調和技研の社外取締役も務める。

このみる研究所編集長 関屋英理子

株式会社ニチレイで新規事業開発を担当。フードテックとの出会いをきっかけに、AIで食の好みを分析し、一人ひとりに合った食を提案するサービス「conomeal(このみる)」の開発をスタート。

この記事の著者のプロフィール

関屋英理子

このみる研究所編集長

株式会社ニチレイで新規事業開発担当。「conomeal(このみる)」と言う個人の食の好みを分析する仕組みを使った事業を開発するのが私の仕事です。 「conomeal(このみる)」を通じた食の楽しみ方、時々新規事業のことなどを発信していきます。

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