
関屋英理子編集長が、「conomeal(このみる)」の誕生に携わったさまざまな分野のプロフェッショナルにインタビューする当コーナー。今回ご登場いただくのは人工知能(AI)の第一人者である川村秀憲教授です。「conomeal(このみる)」のAIはどのように生まれたのか。これからどんな進化を遂げていくのか。じっくりお話を伺いました。
2,000人のモニター調査から、おいしさの研究が始まった。
関屋:川村先生に初めてお会いしたのは、2018年の秋頃。当時はAIを食の分野でどのように活用すればいいのかを模索している段階でした。なかでも頭を悩ませていたのが「おいしさという感性を、いかにAIに学習させるか」ということ。そこで協力を依頼したのがはじまりです。先生はこれまでにも感性の領域にフォーカスしてAI研究に取り組んでこられたのですよね。
川村:はい。人工知能の基礎研究だけではなく、人の感性と調和し、実社会で活用できるAIの開発をめざしてきました。研究室の名前もそのまま「調和系工学研究室」。過去には、AIに洋服をコーディネートした写真を見せて「かわいい」「大人っぽい」といった、感覚的な判断をさせる研究をしたこともあります。だから「食の分野でAIを活用したい」と相談されたときに、関屋さんがやりたいことも、その難しさもすぐにピンときました。
関屋:先生にもプロジェクトに加わっていただき、話し合いのなかで見えてきたのが「好みのメニューをレコメンドするAI」という方向性です。
川村:そのアイデアを実現するには、「ある料理を目にしたときに、人はどんな感情を抱くのか」を明らかにする必要がありました。そこで2000人のモニターを対象に、400の料理画像と料理名を提示し、その反応を探るアンケート調査を実施。ここで得られた膨大なデータを、ニチレイさんが提唱する6つの食タイプに紐づけていきました。
関屋:食タイプとは、一言でいうと「食の価値観」のこと。ニチレイでは10年以上にわたる研究の成果から、個人の食タイプを分類する手法を確立しています。たとえば、効率的に料理をしたい人は「ロジカル」、食材の安全性に強いこだわりを持つ人は「セーフティ」。ほかには「グルマン」「スマート」「インパクト」「ナチュラル」があり、全部で6つ。先生はこれを活用してくれたのですよね。
川村:おっしゃる通りです。その結果として生まれたのが、食タイプごとに好みのメニューをレコメンドするAIになります。これを実用化したのが、食タイプの診断から献立の提案までを一手に担うアプリ「conomeal kitchen(このみるきっちん)」です。

人は、料理とともにストーリーも味わっている。
関屋:今後アプリのユーザーが増え、データがもっと蓄積されていけば、「conomeal(このみる)」はさらに進化するはずです。すると、どんなことが実現できそうですか?
川村:より細やかなレコメンドができるようになると思います。例えばカレーを勧める際に「こってりとした料理が続いているので、今日はさっぱりめのスープカレー」といったように、食タイプだけではなくユーザーの状況や気分に合わせて提案ができるようになるとか。さらに、食にまつわるさまざまなストーリーを踏まえて提案できるようになるはずです。
関屋:ストーリーとは、どのようなものでしょう?
川村:言い換えるならば、情報です。例えば、二日酔いの朝に飲むしじみ汁って本当においしいですよね。あれは味や香りもさることながら「二日酔いといえば、しじみ汁」という情報を知っていてこそのおいしさだと思いませんか?
関屋:たしかに知っているのと、知らないのとでは、おいしさに差が生まれそうですね。
川村:つまり私たちは、ストーリー込みで料理を味わっているのです。だからこそ、進化した「conomeal(このみる)」ではその部分もしっかり抑えたい。献立のレコメンドに合わせて、ユーザーが喜ぶストーリーを一緒に提供できるようになれば、さらに食事のおいしさを高められるはずです。
関屋:それを実現すれば、「conomeal(このみる)」が本当の意味で一人ひとりに合ったおいしさを提案できるようになりますね。
川村:それだけでなく、健康面のサポートもできると思います。「conomeal(このみる)」には「いつ、何を食べたか」といった履歴が残るので、それを踏まえて次は何を食べるべきなのか、栄養面にも配慮したレコメンドができるはず。「ダイエット中」「風邪気味」といった個人のステータスも入力できたら、さらに精度を高められますね。
関屋:おいしさと健康を同時にかなえる。「conomeal(このみる)」がそんな存在になれば私たちにとっても理想的です。これからも「conomeal(このみる)」を進化させるべく、ぜひとも力を貸してくださいね。

プロフィール

「conomeal(このみる)」AIアドバイザー川村秀憲
北海道大学 大学院情報化学研究科 教授。人工知能や複雑系工学の研究に従事し、多数の論文を発表してきた。2017年には地域課題解決に資する人工知能技術の研究開発が功績として認められ、北海道科学技術奨励賞を受賞。北海道大学発のベンチャー企業、株式会社調和技研の社外取締役も務める。

このみる研究所編集長 関屋英理子
株式会社ニチレイで新規事業開発を担当。フードテックとの出会いをきっかけに、AIで食の好みを分析し、一人ひとりに合った食を提案するサービス「conomeal(このみる)」の開発をスタート。