食のパーソナライゼーション 〜後編〜

2021.01.06

KEY WORD関連キーワード

前編では個人やお店などのアレルギー対応を実現する「CAN EAT」、一人ひとりに必要な栄養素を分析して食事を提案する「AI食」について紹介しました。このような一人ひとりに合わせた食事の提供や提案、つまり「食のパーソナライゼーション」を実現すると、どのような未来が待ち受けているのでしょうか。引き続き、2020年12月に開催された「Smart Kitchen Summit Japan 2020」の「日本企業が目指す食のパーソナライゼーション」というセッションから紹介していきたいと思います。


Smart Kitchen Summit Japan 2020の「日本企業が目指す食のパーソナライゼーション」セッションの様子

 

食のパーソナライゼーションは幸せや喜びを運ぶもの

信州大学発ベンチャーである株式会社ウェルナス代表取締役で農学博士の小山正浩氏は「食のパーソナライゼーションは幸せや喜びを運ばないといけないと思うので、『あなたはこれしか食べちゃダメ』と強いるのではなく、自分に合うものを選択できること一番必要だと思います」と語りました。


株式会社ウェルナス代表取締役で農学博士の小山正浩氏

 

「血圧を下げるAI食の試験では、普段から減塩食を食べているのに血圧が150くらいから全然下がらないという人がいました。その方は塩が血圧上昇にかかわっていなくて、ほかの成分で血圧が上がっていたのです。AI食で塩の量を増やしていただいて、味のあるおいしい食事を食べてもらったら、血圧が10程度も下がりました。その人には『人生が変わった』と言ってもらえました。血圧高い=減塩だったから、味の薄いものを食べているのに、血圧が下がらない。毎日つらかったけど、AI食を知って自分自身が何を選択すればいいか分かり、食生活がガラッと変わったと喜んでもらえました」(小山氏)

 


血圧上昇因子と血圧安定因子だけでも人によってこれだけ異なる

 

食事嗜好プラットフォーム事業を展開する株式会社CAN EAT代表取締役社長の田ヶ原絵里氏は食のパーソナライゼーションの未来のイメージについて次のように語りました。

 


株式会社CAN EAT代表取締役社長の田ヶ原絵里氏

 

「食生活に気を付けて、ダイエットしようと食事制限も頑張るけど、目の前に唐揚げがあったら食べちゃいますよね。でも唐揚げのように見えて、味もそのまま唐揚げのように感じるけど、実は減塩されているとか、自分が好きなものを食べていても自動で栄養素や味が自分に最適化されている。好きなものを食べているような気分になっているけど、自分がどんどん健康になっていくというのが、私が目指すパーソナライゼーションの最終的なあり方です。なので、調味料プリンターや3Dフードプリンターなどとの連携も将来的には考えていきたいと思っています」(田ヶ原氏)

 

健康寿命と寿命には10年ほどの開きがあることから、そこを埋める「生きがい」なども必要だとウェルナスの小山氏は語ります。

 

「自分の生活を変えてまで、食を変えていくということはできません。1回はできても、全く継続的なものにはならないので、自分のライフスタイルや食の好みに合った中で提案していく、パーソナライズしていくサービスにしないと使われることはないと思います。例えばお酒を飲んだ後にラーメンを食べる日があってもいいんです。じゃあ翌日は自分の体がこういう風になっているので、これでバランスを取りましょう……そういうアドバイスがあればいいと思います」(小山氏)

 

生体情報などを自動分析することなどで「フリクションレス」を実現

2000年頃から食のパーソナライゼーションを実現するITプラットフォームの構築などに取り組んできた株式会社NTTデータ 統括部長の三竹瑞穂氏は、食のパーソナライゼーションを実現する上で「フリクションレス(入力の手間を省くこと)」というキーワードを紹介しました。

 


株式会社NTTデータ 統括部長の三竹瑞穂氏

 

「現在、スマートミラーというものを開発しています。日常生活の中でわざわざアンケートに答えるのではなく、鏡の前に一定時間いるだけで心拍数や体温などを計測できるというものです。心拍数に異常値が出始めた先に糖尿病があるという話も一部ではあるので、将来的には生活習慣病の予防などにも活用できるのではないかという仮説を立てて取り組んでいます。さらに我々は約300万人の健康診断データも持っているので、バイタル(生体)データ分析するツールや検診データなどと合わせてビッグデータを作り、分析する取り組みも進めています」(三竹氏)

 


現在開発中で、2021年1月には実証実験を開始する予定の「スマートミラー」

 


心拍数や呼吸数、体温などの生体情報を自動的に取得するだけでなく、

その人に合わせた食品も提案するといったデモが行われました

 

さまざまなデータをいちいち自分で入力しなければならないとなると、よほど健康に不安のある方でもない限り、続かないかもしれません。こうしたデータを自動的にとって入力してくれるフリクションレスの取り組みは、食のパーソナライゼーションを実現する上で重要な要素になりそうです。

 

「食というのは健康だけでなく楽しむものです。いかにバランスを取って食の楽しみを味わいつつ、健康的になるためには、どう持続させるかが重要です。我々は『フード&ウェルネス』という言葉を使っていますが、単に健康だけでなく、食の楽しみも含めて選択できる形を作りたいと考えています。食生活の中で生活習慣病などを予防する。医療の方も『治療』から『未病』や『予防』に変わってきていますが、ここの部分でしっかりパーソナライズすることで、食の楽しみも味わいながら、個人の幸せと社会貢献を実現していきたいと考えています」(三竹氏)

 

スマートフォンで撮影するだけでAIによって食事内容を分析し、カロリーや栄養素などのデータを自動的に登録するサービスなども組み合わせれば、その人の食の嗜好に加えてその人の健康状態、さらには必要な栄養素などを分析して提案するといったことが可能になるでしょう。一人ひとりに合った食事を提案する、本当の意味での食のパーソナライゼーションを実現するためには、いろいろな企業が提供するサービスを連携することが必要になるでしょう。そのためにはまだ多くのハードルが待ち受けていることと思いますが、いよいよ本格化し始めたこれらの取り組みのさらなる進化に期待したいところです。

この記事の著者のプロフィール

安蔵靖志

Techジャーナリスト

一般財団法人家電製品協会認定 家電製品総合アドバイザー(プラチナグレード)、スマートマスター。AllAbout 家電ガイド。ビジネス・IT系出版社を経てフリーに。デジタル家電や生活家電に関連する記事を執筆するほか、家電のスペシャリストとしてテレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。KBCラジオ「キャイ~ンの家電ソムリエ」にレギュラー出演するほか、ラジオ番組の家電製品紹介コーナーの商品リサーチ・構成にも携わっている。

こんな記事も読まれています