食のパーソナライゼーション 〜 前編〜

2021.01.06

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和食からフレンチ、イタリアン、インド料理など世界にはさまざまな料理があり、ベジタリアンやヴィーガン、アレルギー除去食や宗教除去食など、多様な食文化や食習慣、さらにはその人の嗜好に合わせた食事や料理の提供がレストランや家庭での食事などで求められるようになってきています。

 

その人の食に対する好みを分析した後に、ライフスタイルやその日の気分をAI(人工知能)が分析し、つくりおきレシピやアレンジレシピなどを提案するニチレイの「conomeal kitchen(このみるきっちん)」アプリ(iOS対応)などもその一つです。料理を作る人の悩みである毎日の献立決めが楽になるだけでなく、複数のレシピをまとめて調理し、その家庭だけのミールキットを作れるというのがユニークなポイントです。

 

国内における、このような「食のパーソナライゼーション」に向けた動きはどのようになっているのでしょうか。2020年12月に「食&料理×サイエンス・テクノロジー」をテーマとして開催された「Smart Kitchen Summit Japan 2020」の「日本企業が目指す食のパーソナライゼーション」というセッションから、最近や今後の動きを探ってみたいと思います。

アレルギー対応を手軽に実現できる「CAN EAT」

食物アレルギーなどの理由で食べられないものや、苦手なもの、好きなものを事前にWeb上に記録し、友だちや飲食店にシェアできる食事嗜好プラットフォームサービス「CAN EAT(キャン イート)」を提供しているのが、株式会社CAN EATです。

 

CAN EAT代表取締役の田ヶ原絵里氏は「一般の生活者向けに、食事嗜好のプロフィールサービスを無料で展開しています」と語ります。

 

「自分のアレルギー情報がたくさんあると伝えるのが大変なので、それをWebで登録し、QRコードでシェアできるようにしています。食べられないものだけでなく、好きなものや苦手なものも入力できるようになっており、今はこのデータを使ったAI味覚分析にも取り組んでいます」(田ヶ原氏)


CAN EAT代表取締役の田ヶ原絵里氏

 


食嗜好を登録し、レストランなどで簡単に共有できる「CAN EAT」

 

CAN EATはウェディング会社やホテル、飲食店向けのサービスも展開しています。

 

「外食におけるアレルギー対応は訴訟が起きるほどの事故があるというのを背景に、誰でも簡単に正確なアレルギー対応ができる2つサービスを運営しています。1つは婚礼向けのアレルギーヒアリングサービスで、もう1つはスマートフォンで原材料ラベルを撮影すると自動的にアレルギーの判定をし、アレルギー表を作るというサービスです」(田ヶ原氏)


婚礼向けのアレルギーヒアリングサービス

 


アレルギー表作成代行サービス

 

CAN EATのサービスが本格スタートしたのは2019年12月で、約1年間でユーザー数は6万人を超えたとのこと。

 

「アレルギー対応ができる法人向けサービスに力を割いてきましたが、食に課題がある方の意見を取り入れることができたことで、口コミとかで自然に広がっていったのだと思っています。アレルギーを持つ人はマイノリティに思われがちですが、現場からは増えているという声を聞いています。実際の調査データや我々の感覚では、10〜20%の方がアレルギーを持っていると感じます。人種的なものではなく、食のダイバーシティ(多様性)の点でも関心が高まっているのではないかと思います」(田ヶ原氏)

一人ひとり必要な栄養素を分析して提供する「AI食」

続いては、「ナス由来コリンエステル」をはじめとするサプリメント製造販売事業のほか、食品原料販売事業やヘルスケアマネジメント事業などを展開する信州大学発ベンチャーの株式会社ウェルナス代表取締役で農学博士の小山正浩氏が、同社が取り組む「AI食」について紹介しました。


株式会社ウェルナス代表取締役で農学博士の小山正浩氏

 

「AI食は自己実現を可能にする、それぞれの人の目標達成のために設計した食事のことです。その人が食べている食事の情報とバイタル情報(脈拍や血圧、呼吸数などの生体情報)をAI解析することで、その人の目標達成を応援できるような栄養素、逆にネガティブな影響を与えてしまう栄養素を判別し、目的達成のための栄養組成を持った食事を提案します」(小山氏)


AIは自己実現のために設計された個人最適食とのこと

 

例として高血圧の方に向けたAI食を紹介しました。

 

「一般的には高血圧の方には減塩が効果的と思われていますが、(塩の主成分である)ナトリウムが血圧を下げる効果がある人がいるのです。一方で減塩が確かに効果があるという人もいます。つまりパーソナライズが必要なのです。そこで高血圧の方13人にAI食を試してもらいました。血圧を上げる因子、下げる因子のパターンが人によって全然違うことが分かり、必要な栄養素の個性に基づいてAI食を設計しました。ベースのメニューに対してチーズを追加するとか、ご飯をちょっと減らすというアドバイスをしたことで、13人中12人の血圧が実際に下がるという結果が出ました」(小山氏)


血圧上昇因子と血圧安定因子は、人によって異なる

 


AI食による血圧改善効果を実証

この例では高血圧の方に向けたAI食ですが、「例えば美容に向くAI食、アスリートなら記録を伸ばすAI食、学生なら学力を伸ばすAI食などの構築も可能な技術です」と小山氏は語りました。


AI食は数値化できる目標であれば、さまざまな自己実現達成に活用できるとのことです

 

AI食はまだサービス提供前ですが、手軽にかつおいしく食事をしながら健康増進や自己実現が可能になる取り組みには大いに期待したいところです。

 

後編では食のパーソナライゼーションが今後どう進んでいくのかなどについて紹介していきたいと思います。

この記事の著者のプロフィール

安蔵靖志

Techジャーナリスト

一般財団法人家電製品協会認定 家電製品総合アドバイザー(プラチナグレード)、スマートマスター。AllAbout 家電ガイド。ビジネス・IT系出版社を経てフリーに。デジタル家電や生活家電に関連する記事を執筆するほか、家電のスペシャリストとしてテレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。KBCラジオ「キャイ~ンの家電ソムリエ」にレギュラー出演するほか、ラジオ番組の家電製品紹介コーナーの商品リサーチ・構成にも携わっている。

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