乳酸菌発酵。「すんき」と「シンキ」と「グンドゥルック」

2021.01.09

KEY WORD関連キーワード

5年ほど前なりますが、名古屋に仕事で出かけたことがありました。イベントでの登壇仕事でしたが、ついでにカレー取材もしたかったので自分のクルマで出かけました。その帰り道でのお話しです。

行きは大人しく東名で。東山線から環状線で山王JCT越えて定番コースでさっさと到着。イベントはセントラルパークでのフードイベント。ちょっとタレントさん風のお仕事で2日間。それを終えて名古屋市内のカレー店行脚をしました。

さて、帰り道。後ろの予定が詰まっていなかったので、多治見から出て恵那、中津川、飯田から諏訪湖と木曽の山に沿うように八ヶ岳経由で下道を走って帰ることにしました。そこで面白いものに出会ったのです。

国道19号線をひたすら走ります。クルマを走らせるのは好きなのでとても楽しい。途中何度か道の駅に立ち寄りました。あれは確か「道の駅 日義木曽駒高原」。仕事の一環で道の駅に立ち寄ってはカレー関係の製品やメニューをチェックします。

食堂にはちょっと知らない名前のカレーがありました。「すんきカレー」。あ、レトルトにもあるぞ。ところで「すんき」ってなんだろう。壁の説明書きを読んでみると、どうやらお漬物の様子。すんき漬けは木曽地方の伝統発酵食。地域に植生する赤かぶを材料とした発酵漬物である、とありました。

おやおや、これ、こういうやつ知ってるぞ。無塩の漬け込みで乳酸菌発酵を促すやつ。
一般的な漬物は塩を使って漬けますよね。雑菌繁殖のコントロールという意味での塩の大量使用。ところが木曽あたりの山間の地域では塩は大変な貴重品、なにしろ海から遠くルートとしても交通の要衝という場所でもないという歴史もあります。それで無塩発酵の漬物が作られるようになったそうです。なるほどおもしろい。木曽の中でも比較的穏やかな気候の地域だと酸が強くなったり食感が変わったりと本来のおいしいすんき漬けはできないそうです。より過酷な地域にフィットする加工食品だということですね。

独特の酸味としゃきしゃきした食感が特徴で、本来のお漬物としての食べ方もしますが炒めたり煮たりする調理を行う食べ方もあります。そして保存。冬の時期につけられたすんき漬け、保存のために陰干しされて乾燥すんきに加工を行うのだそう。それをオフシーズンに水で戻して使ったりするそうです。

ああ、もうこれは完全にグンドゥルックだ。

グンドゥルックという聞き慣れない名前。ネパール語です。
グンドゥルックはからし菜や大根の葉を使ったネパール独特の発酵乾燥野菜。発酵は乳酸菌発酵です。
ネパールは山岳国です。厳しい自然環境の中で食料品の保存など考えればやはり同じようなものができるということ。そういうことですよね。こういうのはとても面白い。
塩を使わない漬物は珍しいものです。海外ではネパールのグンドゥルックの他に中国で「酢菜」という白菜の酸っぱい漬物がある程度と聞きます。(酢菜は東京では神田、御徒町などにある「味坊」という中国東北地方料理の店で食べられます)日本では新潟県に「いぜこみ菜」、福井県に「すなな漬け」等がある程度。あまり一般的ではありません。

そしておもしろかったのはそれだけではないんです。その木曽の山の中で買った乾燥すんき漬け、わたしの懇意にしているネパール食堂、巣鴨の「プルジャダイニング 」に持って行って見せたら「なんでグンドゥルック持っているの?」と聞かれました。彼らにも同じものに見えたのです。プルジャさんに話を色々聞きました。

グンドゥルックはからし菜、大根菜などの茎や葉などを干したあと瓶にギュッと詰め込んでそのまま日に当てるなどして乳酸菌発酵をさせた漬物です。それを干して保存食として調理に使います。

グンドゥルックという言葉の意味としてネパール語で「ギュッと詰める」というものになります。それはつまり作るとき、保存している姿を言い表したもの。へえ、そうなんだ。おもしろいなあ。

上の写真はプルジャダイニング の定食メニューのグンドゥルック カナ。グンドゥルックをスープ(グンドゥルック コ ジョル)に仕立てたものをメインディッシュにした定食です。

ご飯にかけるとスープ部分からグンドゥルックが浮かび上がってよく見えます。歯応えがあって面白い。酸っぱくてコク深くておいしいものです。炒った大豆が浮かべてあり、食感の変化を作っています。

それで、プルジャさんに木曽にあるすんき漬けのことを話しました。話の途中からプルジャさんの目が輝きを増して頷く回数が増えていきます。「ほとんどおんなじです」とプルジャさん。

その話から派生して、たとえば日本でもネパールでも同じだと思われる事柄、高地、山岳地であれば日本であれネパールであれある程度環境が似てくること。例えば葉物野菜ができる季節は限られ、痩せた土地でも比較的育つ根菜が主流であること、牧畜は大型の家畜が飼えないので羊、ヤギ、鶏などに限られること、海から遠い山岳地帯では塩が貴重品で、だからこその乳酸菌発酵であることなどをおしゃべり。

そのなかで「グンドゥルックはシンキとも呼ばれるのよ」という話がプルジャさんの口から飛び出しました。あっと思いました。「すんき」と「シンキ」、そして「グンドゥルック」。もちろん徹底して調べたわけではありません。でも、「すんき」と「シンキ」というところでやっぱりあっ!!と思ってしまいますよね。これはどんなつながりがあるのか、ルーツを調べてみたいものです。

最後に一袋残っていた木曽のすんき、冒頭の写真のものを袋から出してちょっと味見をすると「これはグンドゥルックですね!」とプルジャさん。とても面白いと何度も言っていました。木曽まで行ってみたいとも。

そして「ではもうひと皿、グンドゥルックで」とプルジャさんが作ってくれた、グンドゥルックを使った里芋との炒めもの。大変に美味しかったです。

アジア各地にある納豆の類、ネパールにもキネマという名前であります。ほかにもスリランカで使われるモルディブフィッシュと日本の鰹節など、似た環境やなんらかの繋がりで同時多発的に発生する食文化というのがあるとわたしは考えます。また、思いも寄らないルートでいろいろな国から別の地域に伝来することもあるでしょう。


何かを食べる時、その食べ物の裏側に隠れている成り立ちなどの背景。興味を持って調べていくと、とても面白いことが多いです。

自分の食べているもののルーツを知る。思わぬところでのつながりに、彼の地の人と話しが弾む。こういう体験はなかなか楽しいものだと思いませんか。

この記事の著者のプロフィール

飯塚敦/はぴい

フードジャーナリスト

食をテーマとしたライフスタイルブログ「カレーですよ。」に国内外のカレー実食レポート5000記事超の掲載。月刊誌にてカレー取材記事連載中。連載期間10年目は国内随一。TV、ラジオ、雑誌等メディア出演多数。著書に「カレーの本」「iPhone x Movieスタイル」等。はぴいオフィシャルサイトHP➡https://hapi3.net/

こんな記事も読まれています